ピンホール式プラネタリウムと投影ドームの製作

 大平貴之氏のメガスターにはおよびませんが,星空を再現して一般の人にも楽しんでもらえるプラネタリウムを過去何度か自作しました。特に文化祭などで低予算で実施できるものとして,ノウハウを紹介します。
 ただし,投影できるのは恒星のみで,プラネタリウムの本来の意味である”惑星”のシミュレーターではありません。その意味で”ステラリウム”と言うべきかもしれませんが,ピンホール式で5等星までを再現できます。
 工具や今までの試行錯誤に要した費用を別にすると,材料費は2万円前後です。その他諸々としても総費用3万円以内で可能です。

1.恒星球の製作
 恒星球は,東急ハンズの素材売り場で手に入る直径30cmの透明半球(塩化ビニル)2個をむかえあわせにして作成します。
 恒星の位置決めの,星図として,綴じ込み式の本になっていない誠文堂新光社の「スターマップ星空地図帖」が1枚になっていてコピーしやすく使えます。
 この星図の大円の円周の長さが透明半球の直径30cmの円周になるように拡大率を計算して拡大コピーをとる。ただしコピーは天球を外から見た状態にするため,一度透明なOHP用のフィルムにとって,それを裏返しにして通常の紙にコピーします。こうすると位置決めや穴開けを透明半球の外側から行えるようになります(右写真)。星図を球面に貼り付けられるように分割し,円筒面上に投影されているため多少誤差ができますが,半球の内側に貼り付け,外側から恒星の位置を等級ごとにマジックで色分けして,しるしをつけていきます。南半球は,一応赤緯−60°まで行いました。
 位置決めしたら,穴開けです。穴開けは電動ドリルで行いました。恒星の明るさ(等級)はドリルの刃(きり)の直径で調節します。穴の大きさはは次のようにしました。0等級〜1等級を径2mm,2等級を1.6mm,3等級を1.2mm,4等級を0.8mm,5等級を0.4mm。
 径の比が1.5でその二乗2.25倍の明るさの比になります。上記では等級ごとにばらつきがあることになりますが,同じ1等星にも0.5等から1.4等までの開きがあることを考えると,相対的な差があれば(星図の黒丸がそうであるように)製作上の精度としてOKではないかと思います。こだわって径をさらに細かく分けるなら,相応の時間と費用がかかります。また,1mm以下の刃はドリルのチャックにはさむために,ピンバイスという道具が必要になります。とくに0.4mmは折れやすく,扱いに苦労しますが,5等星があるとないとでは星空の再現性に大きな差が出ると思います。ドリルの扱いには怪我のないように注意が必要です。
 穴開けが終わったら,つや消し黒のラッカースプレーで塗装します。0.4mmの穴が塗料で埋まるような気がしましたが,心配ありませんでした。南北半球はフランジに4箇所穴を開けて3mmのビスでむかえあわせに出来るようにします。また,南極部にφ18mmのステンレスパイプが通る穴を開け,パイプの先端が半球の中心近くになるようにパイプと恒星球をフランジ金具でビス固定しました(注:改良前の方法)。ステンレスパイプやフランジ金具はホームセンターなどで普通に見られるものです。
 ステンレスパイプも内側を黒く塗装し,豆電球用のソケットを取り付けます。
 光源としての豆電球ですが,点光源として小さいのは,ボルト数の低いものです。光量を上げるのに,電源(理科実験用の電源装置がベスト)の電圧を上げると電球が切れるので,結局2.5V0.75Aのものに落ち着きました。アンペア数が高いものなら多少電圧を上げて明るくしても切れにくく,フイラメントが小さくて星像もまずまずです。
 
 恒星球を組み立てたら,外に出ているパイプを極軸として東京付近の緯度に相当するように仰角35°で,パイプを壁などに固定する部品で木製の架台 に回転できる状態で取り付け,一応の完成です(改良以前)。この架台は,自作のドブソニアン型の反射望遠鏡だったものを流用しています。
 ただし,このままでは,恒星球を回転(日周運動)させると電球のケーブルも一緒に回転するためよじれるという欠点があります。その後,ステンレスパイプと電球の方を架台に固定し,恒星球だけが回転するように改良しました。そのために南極部分が厚くなるように100均ショップにあった植木鉢の下に置くプラ製の皿を取り付けてガタを少なくするようにしています。恒星球は,ただ,ステンレスパイプにはまっているだけで,すぽんと抜き取ることができ,電球の交換もスムーズに出来ます。電球の下半分を遮光すれば,恒星球が地平線より下に星を投影することもなくなります(パイプより細い部品で遮光しなければならず,この作業は行っていません)。
2.ドームの製作
 ピンホール式の場合,星像をつくる光は拡散していくのでドームを大きくすればするほど暗くぼやけてしまうためドームの大きさには自ずと限度があります。作ってはいませんがが半径2mくらいまでが限界ではないでしょうか。また,普通の学校の教室など天井があるので,やはり大きくて半径2mくらい。それでも,つぶれないような軽さと強度をもった丸い天井を,低予算でどうやって作るかはじめは悩みました。柔らかい素材で,実際に曲面とするなら,ビニールとか風船のようなものになるが,光が透過するような素材しか思いつかない。曲線の枠組みは,強度が足りなそうである。では,大なり小なり平面を拡張した球に近い多面体にするか。
 昔の富士山のレーダードームのような正三角形の組み合わせやサッカーボールのようなものを考えたりしましたが,できるだけ単純化してひらめいたのが正方形と八角形を組み合わせた右のような多面体です。これなら,枠組みを木材で組み立てることも可能で,これに,ボール紙を貼り付けて投影スクリーンにしたのが一代目のドームでした。
 しかし,最近になって,インターネットを検索すると段ボールドームがいろいろ紹介されています。思いつかなかった地球儀型の形態で,実際に作ってみると充分な強度が得られることがわかりました。
 段ボールをガムテープで貼り合わせていくと右のようなドームがでます。球を経度方向にに12分割,緯度方向に半球を12分割(赤道から極まで6分割)しました。
 直径約3.4mで,実際には半径1.72mとすると,円周は10.8mになります。10.8÷12=90cmが基本のサイズになり,作業がしやすくなります。段ボールは,梱包材料の専門メーカーで販売されている板段ボールを購入しました。片側が白で普通の厚さ,180×113cmで1枚300円程度です。
 経度方向は赤道が90cmずつ,緯度方向は360°÷12=15°で,90cm×cos15°30°45°と経線方向の幅を狭くしていく等脚台形に切り取る作業を行います。写真のように,緯度方向は3つに切り出し,45cmで切らずに折り曲げています。くり返しますが,外側を黒の布テープ,内側は白の紙のガムテープで貼るだけで,思ったより強度があり,重量的にも軽く,作成時も解体時も危険がなく申し分のない素材でした。ガムテープも含めて7000円程度でできます。
180×113cmの板段ボールに無駄のない型紙例。これを12枚切り取れば部品のできあがり。
 カッターナイフの扱いには十分な注意が必要です。
3.その他
 ドームを持ち上げる部分は,ご覧のように教室の机を使っています。裾の部分はボール紙で遮光しました。黒模造紙などでも可能でしょう。隅々までの光漏れをなくすのは至難の業ですから,ドームの外も暗くないと実際には投影できる暗さが得られません。窓には暗幕をかけ,部屋の照明を消して実施します。
 ドームとして密閉度が高く,換気がないと熱がこもりますし,酸欠状態で不衛生です。ドームの下部に一箇所扇風機を設置し外気を取り入れました。さらにドームの上方の一部に穴を開けています。穴にさらにシロッコファンなど取り付けて強制換気すると良いでしょう。
 一度に,16人が観覧できました。解説は主な星座と一等星,夏冬大三角などですが,それでも10分くらいのプログラムになります。
 教室内を暗くしているので,ドームの外ではブラックライトで光る蛍光塗料で作った星座図でクイズなどを行い,お客様の待ち時間を埋め合わせるようにしました。
参考URL
http://www.megastar-net.com/school/pinhole_plane.html
http://www.kaguya.jaxa.jp/ja/document/DomeProject.htm
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